「宵越しの金は持たない」「ざるそばにつけるつゆはほんの少し」「そしてあえて音を立ててすする」
こんなものが当てはまるでしょうか。
「粋」とは、日本独特の美意識を表します。
そして、人の内面や生き方そして社会との関わり方に根差した価値観を言います。
これをを理解するには見た目の表層的な部分だけでなく、その背景にある精神や哲学に目を向ける必要があります。
自らの身だしなみ
基本的な特徴は外見的なものだけではなく洗練された美しさと簡潔さです。
過剰さを嫌い、必要最低限の中に品格・趣・行動・態度・思考を表現することを尊びます。
江戸時代の町人たちは豪華絢爛な装飾を避けつつも、着物の柄や帯の結び方に細やかな気配りを見せてそこにさりげない美しさを追求してきました。
他者への振る舞い
このような控えめな様は、周囲との調和を重視する日本文化の特質とも深く関係しています。
自分の価値観を押し付けることはせずに自然体でその信念を体現します。
会話の中で直接的な言葉を使わずに、褒められたときには謙遜かつ軽妙な言葉でサラリと。
粋を追求することは自分自身の内面を磨くことでありつつ、他者との関わり方を見直す契機にもなり得るのです。
宮坂さんも「粋」を体現してみようとチャレンジしてみましたが、そこでは「そっけない」とか「無愛想」と言われてしまい撃沈。
原因は、ユーモアやさりげなさとの微妙なバランスを会得できていなかったからでしょう。
色っぽさと野暮
昭和時代前期の哲学者九鬼周造(くきしゅうぞう)は「いき」の定義の一つを、媚態すなわち「色っぽさ」と言っています。
恋に落ちたときに相手とひとつになりたいと思う心理については、これを「野暮(やぼ)」であると。
粋の対極に位置する概念としては他に「不粋(ぶすい)」があり、どちらも洗練を欠いた態度や場の空気を読まない言動を指します。
過度に自己主張をして派手な装飾を施す行為は、粋とは真逆です。
単なる美意識や文化的な規範以上に、人間関係や社会的な振る舞いとは何かを包括するものと言えるでしょう。
講談社「COURRIER」特集記事の冒頭部分
結婚できない粋な男
現代においても「粋」は私たちの生活の中に息づいています。
時代や文化を超えて共通する価値観として多くの示唆を与えてくれる概念です。
「無愛想」と言われて失意の底にいた宮坂さんは、つい最近ネットフリックスで初めて「結婚できない男」というドラマを見ました。
主人公たちの揺れ動く感情の演技にとても共感したそうです。
そこに「媚態」「色っぽさ」そして「粋」を感じたのかもしれません。
ザ・テレビジョン「第50回ドラマアカデミー賞」
https://thetv.jp/feature/drama-academy/50/awards/interview/1