ベテラン建築家の悲哀(印紙税)

 建築業を営む宮坂さんと私との間で作成した、住宅の建築工事請負契約書に不備が見つかりました。

 なんと請負金額の「0」が1桁少なかったのです。

 私が先に気づいて一瞬ほくそ笑みました。私の心の中の悪魔が「ほっとけよ」とささやいてくるのです。

 しかし宮坂さんもすぐ気づくだろうと思い、正直に指摘しました。

 宮坂さんは申し訳無さそうに私に謝り、翌日には正しい請負金額の入った契約書を持ってきてくれました。

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見に行ってみたいのは私だけ

「維新の十傑」江藤新平

 日本での印紙税の起源は、明治6年(西暦1873年)2月に始まった「受取諸証文印紙貼用心得方規則」。

 明治時代に入って、西洋文化とともに税制も取り入れられたそのうちの一つです。もう150年以上前からある税金です。

 明治7年に作られた「証券印紙規則解全」という資料が税務大学校に残されています。

 そこには金銭の貸し借りの文書はどのように書式を作り、印紙はどのように貼るべきかが解説されています。

税務大学校HP https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/sozei/network/276.htm

文書を作ったら、はい課税

 印紙税には制定当初からの「文書課税」という大前提があります。

 契約が成立したあとに課税されるものと考えられることが多いですが、この「文書課税」という考え方は文書を作ったことに対しての税金です。

 契約が履行されずとも、文書を作ってしまえば課税文書となってしまいます。

ベテランでもたまには間違えます

 宮坂さんは建築の道30年のベテラン。そんな人が請負金額を1桁間違えるなんて私も信じられません。

 収入印紙はすでに貼っていたので、収入印紙の代金を再度負担しなければならなくなります。

 今回は私が負担しましたが、宮坂さん本人もさらにショックだったでしょう。

ベテランでも許しません

 印紙税とは契約の安定性を計るためのものと考えます。

 契約書に誤りがあってもその取引が「あっごめんね!」で済ませられる取引とは限りません。

 しかし印紙税があることで「契約書は慎重に正しく作らなければならない」と、契約書の重要性を重んじる風潮を作り出すことができます。

 それが取引の安定につながって、社会も発展していけるようになるのです。

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