年末から先月にかけて1~2時間の間隔で目が覚めてしまい、よく眠れていませんでした。
22時を過ぎてもあくび一つ出ず、まったく眠たくなりません。
しかしここ一週間はだんだん眠たくなる時間が早くなってきました。暖かくなってきたからでしょうか?
そんな数日前の未明の夢である女性と男子小学生が現われます。
小学生は私に言いました。「そんなに無理しなくていいよ」と。
軽くなった気持ちでその夢から覚め、時計を見ると3時半。
これまでよりは改善したと安心しつつも、あっさりと終わった変な夢でした。
ここからは、もし朝まで目覚めていなかったらこうなっていたかもという物語です。
驚嘆
「ねえ、あんまり無理しなくていいよ」
思いがけず真っすぐな言葉が、少年の口から投げられた。
宮坂さんは思わず笑った。
「無理しているのは、仕事が大事だからだよ。」
少年の言葉を軽く受け流したつもりだった。けれど、声の奥に残った自分の本音に宮坂さんは気づいてしまった。
キッチン


キッチンでは宮坂さんと同い年の千夏が静かに洗い物をしていて、袖を少しまくった手が水の中で静かに動く。
その姿がなぜかやけに美しく見えた。
「千夏、さっきから何も言ってないけど…笑ってる?」
「ううん、笑ってないよ。ただ、健太くんはいい子だなって思って。」
彼女はふっと笑みを浮かべ、宮坂さんの方をちらりと見た。
宮坂さんと千夏はどこかで似たような疲れを抱えているように思えた。
だけど千夏は疲れを笑顔の中に包むのが上手い。宮坂さんはそれが少しうらやましかった。
健太はまだ宮坂さんの言葉の意味がわからなかったようで、少し困った顔をしていた。
だけど千夏の「いい子だな」の一言には、宮坂さんの何かがほどける音があった。
空を見上げて

小さな家の中で交わされた言葉たちは、洗い物の音と共にやさしく流れていく。
空はうっすらと曇っていたけれど風がやさしい。
どこかに行きたくなった。
「千夏、ちょっとどこか行かない?」
千夏は一拍置いてから笑った。
「いいね。健太くんも連れて行こうか。」
健太はゲームをしていたけれど「電車に乗るなら行く!」と言ってくれた。
何気ない3人の会話で小さな旅が始まった。
懐かしい潮風

目的地は、海辺の小さな町。
昔、宮坂さんと千夏が昔ふらっと訪れたことのある場所だった。
駅前の喫茶店も潮の香りも、当時の記憶のまま少し色褪せて残っていた。
「お父さん、なんか疲れてたよね最近。」
健太がそう言ったのは、海を見下ろす高台に立ったときだった。
宮坂さんは笑った。だけどそれは少し泣きそうな笑いだった。
「そっか、バレてたか。」
「うん。でも先生やめてもいいと思うよ。お父さんが元気ならなんでもいい。」
言葉が風に溶けた。
宮坂さんは目を閉じて、千夏の方を見る。
彼女は何も言わず、静かに隣に立っていた。
昔からこういうときに黙って寄り添ってくれる女性だった。
「お父さんさ…再婚しようかなって思ってるんだ。」
健太は目を丸くしていたけど、すぐに「ふーん」とだけ言った。
「その人、優しい?ゲーム得意?」
「うーん、あんまり。でも、すごく料理がうまい。」
健太は少しだけ笑っていた。
帰りの電車

その日、海辺の食堂で食べたアジフライはびっくりするほど美味しかった。
その帰りの電車では、健太はぐっすりと眠っている。
「健太くんに再婚のこと、ちゃんと話せてよかったね。」
千夏がそう言ったとき、宮坂さんは胸のどこかにあった重たい石がふっと軽くなったのを感じた。
アジフライと相模湾


JR東海道本線真鶴駅(神奈川県真鶴町)の駅前にある食堂「福浦屋食堂」。
ここは私がもう25年ほど前に一度行っただけのお店ですが、たしかここでした。
アジフライ定食が本当に美味しかったです。
☆福浦屋食堂 https://fukuuraya.favy.jp/
この日はここから歩いて15分ほどの吉浜海水浴場で楽器仲間と合流。
海水浴と併せて、私にとって数少ない真夏のいい思い出となっています。